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労災保険の障害(補償)給付:安心のバックアップ、障害が残っても補償あり

  • 執筆者の写真: Kudo
    Kudo
  • 2023年8月13日
  • 読了時間: 7分

更新日:2023年8月16日

労災によりケガや病気を負い、通院や入院による治療の結果、残念ながらも障害が残ってしまうことがあるかもしれません。例えば、工事現場で落下物が片方の目に直撃して治療を受けるも、視力が下がってしまったような場合が考えられます。また、製造加工の現場で、ローラーに腕を挟み、切断されたような場合もあります。このようなときのために、労災保険には障害が残ってしまった場合の保険給付として、障害(補償)給付があります。


この記事では、労災保険の給付内容のうち、障害(補償)給付について掘り下げて解説します。障害はその種類や程度に応じて補償内容が細分化されています。あらかじめ確認いただき、お役に立てれば幸いです。


労災保険の障害(補償)給付

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障害(補償)給付は、労災によるケガや病気が治ゆ(症状固定)したが身体に一定の障害が残る場合に保険給付されます。

※ここでいう治ゆ(症状固定)とは「これ以上治療しても症状が改善しない」という意味(症状固定)をいいます。つまり、機能的に回復したかどうかではなく、それ以上の医療効果がもう望めない状態のことです。


一方で、障害の種類(目の障害なのか手足の障害なのか)や程度(失明した、切断した等)は様々です。障害(補償)給付で保険給付される内容は、障害の種類や程度(障害等級という)に応じて給付内容が異なるため、まずは、障害等級を確認しましょう。


1. 障害等級とは? :第1級~第14級の14段階


障害等級は、その種類や程度に応じて、第1級から第14級までの14段階に細分化されています。そして、補償される内容も以下のとおり細かく分けられています。


① 障害等級第1級から第7級までの障害に該当するとき

→ 障害(補償)年金、障害特別支給金、障害特別年金が給付される


② 障害等級第8級から第14級までの障害に該当するとき

障害(補償)一時金、障害特別支給金、障害特別一時金が給付される

2. 年金と一時金の違い:障害等級に応じて異なる


障害(補償)給付は、第1級から第7級までは年金が、第8級から第14級は一時金が、それぞれ給付されます。この違いは大きな違いですので、具体的な給付金額を見る前に確認しましょう。


① 年金の給付とは?(障害等級第1級から第7級までの障害)

→ 年金の給付とは、毎年給付されるという意味になります。障害(補償)年金と障害特別年金はいずれも年金ですので、受給者が死亡するまで毎年給付されることとなります。支給される月については、支給要件に該当することとなった月の翌月分から支給され、毎年2月、4月、6月、8月、10月、12月の6期に、それぞれの前2か月分が支払われます。


② 一時金の給付とは?(障害等級第8級から第14級までの障害)

→ 一時金の給付とは、一回限りの給付(一時払い)という意味になります。障害(補償)一時金、障害特別支給金、障害特別一時金が、一時払いとして給付されるものとなります。


言い換えると、年金給付される場合の障害の程度はかなり重い障害であり、一時金として給付される障害の種類は、比較的重くないものといえるでしょう。

3. いくら支払われるのか?


障害(補償)給付は、障害等級に応じて年金払いと一時払いがあることまでみてきました。ここでは、等級ごとにいくら給付されるか確認していきます。赤色ハイライトは年金、青色ハイライトは一時金として給付されるものです。なお、身体障害は例示であって、表記の障害以外にも多くの障害が給付対象となります。

​障害等級

給付内容

身体障害の例示

​ 第1級

​給付基礎日額の313日分(年金)

両眼失明,両腕ひじ以上で失った等

​ 第2級

​給付基礎日額の277日分(年金)

両腕手首以上で失,両足足首以上で失等

​ 第3級

​給付基礎日額の245日分(年金)

両手の手指の全部を失った等

​ 第4級

​給付基礎日額の213日分(年金)

両耳の聴力失,片腕ひじ以上で失等

​ 第5級

​給付基礎日額の184日分(年金)

片腕手首以上で失,両足足指全部を失等

​ 第6級

​給付基礎日額の156日分(年金)

​一手の指全部又は母指含む四の手指失等

​ 第7級

​給付基礎日額の131日分(年金)

一眼失明し他眼視力が0.6以下になった等

​ 第8級

​給付基礎日額の503日分(一時金)

一眼失明又は視力が0.02以下になった等

​ 第9級

​給付基礎日額の391日分(一時金)

両眼視力が0.6以下になった等

​ 第10級

​給付基礎日額の302日分(一時金)

一眼視力が0.1以下になった等

​ 第11級

​給付基礎日額の223日分(一時金)

両眼まぶたに著しい運動障害残す等

​ 第12級

​給付基礎日額の156日分(一時金)

一眼まぶたに著しい運動障害残す等

​ 第13級

​給付基礎日額の101日分(一時金)

両眼まぶたの一部に欠損を残す等

​ 第14級

​給付基礎日額の56日分(一時金)

一眼まぶたの一部に欠損を残す等

例えば、給付基礎日額10,000円の労働者(月給約30万円)が、労災によって両眼を失明した(障害等級第1級に該当)場合、10,000円 × 313日分 = 313万円の金額が、障害(補償)給付として年金で給付されます。


以上は障害(補償)給付の部分のみですが、このほかに、障害特別支給金および障害特別年金(又は一時金)も支払われます。これらも障害等級に応じて、下記の表のとおり給付されます。

障害等級

障害特別支給金(一時金)

障害特別年金

第1級

342万円

算定基礎日額の313日分

第2級

320万円

算定基礎日額の277日分

第3級

300万円

算定基礎日額の245日分

第4級

264万円

算定基礎日額の213日分

第5級

225万円

算定基礎日額の184日分

第6級

192万円

算定基礎日額の156日分

第7級

159万円

算定基礎日額の131日分

障害等級

障害特別支給金(一時金)

障害特別一時金

第8級

65万円

算定基礎日額の503日分

第9級

50万円

算定基礎日額の391日分

第10級

39万円

算定基礎日額の302日分

第11級

29万円

算定基礎日額の223日分

第12級

20万円

算定基礎日額の156日分

第13級

14万円

算定基礎日額の101日分

第14級

8万円

算定基礎日額の56日分

ここで新たに算定基礎日額という言葉が出てきました。算定基礎日額とは、算定基礎年額を365で割った数字となります。算定基礎年額は以下の①~③のうち最も低い金額です。


① 労災発生日以前の1年間にその労働者に支払われた特別給与(ボーナス等)の総額

② 給付基礎日額 × 365 × 20%

③ 150万円


具体的に、給付基礎日額が10,000円(月給約30万円)、1年間のボーナスが100万円の労働者を考えてみます。


①はボーナス等の金額ですので、100万円

②は10,000円 × 365 × 20% なので 73万円

③は150万円


一番低い金額は、②の73万円ですので、これが算定基礎年額となります。日額は、この数字÷365なので、算定基礎日額=2,000円となります。


つまり、給付基礎日額10,000円(月給約30万円)、ボーナス年額100万円の労働者が労災により両眼を失明すると、


① 障害(補償)給付として313万円を年金として受給

② 障害特別支給金として342万円を一時金として受給

③ 障害特別年金として2,000円(算定基礎日額) × 313日分=626,000円を年金として受給


する計算となります。


初年度はこれらすべての合計として、7,176,000円を受給し、2年目以降は②がなくなるため3,756,000円を年金として受給することとなります。


なお、障害(補償)年金は、厚生年金や国民年金の障害厚生年金、障害基礎年金と併給できますが、併給すると、障害(補償)年金の金額が併給調整として減額されるため注意が必要です。


想定労働者の年収は460万円ですので、初年度を除いて、年あたり約375万円の受給というのは、両眼を失明したということも踏まえると、やや心もとない部分があると感じる方もいるかもしれません。また障害等級8級~14級の場合は一時金しかないため、給付内容が障害によってもたらされる労働上または生活上の問題に見合わない可能性もありそうです。任意保険などの労災の上乗せ補償によってカバーする必要がありそうです。

4. 注意すべきポイント:


① 手続方法について:請求書を労働基準監督署に提出

障害(補償)給付は、様式第10号(障害補償給付・複数事業労働者障害給付支給請求書)または様式第16号の7(障害給付支給請求書)に、会社から証明をもらい、それを所轄の労働基準監督署長に提出して請求します。あわせて、医師等の診断書や、必要に応じてレントゲン写真などの資料を提供する必要があります。療養(補償)給付は労災病院や指定病院での手続きと、それ以外の病院での手続きと異なっていましたが、この点につき、障害(補償)給付では手続きとして労働基準監督署に提出する必要があるので注意が必要です。

なお、障害(補償)給付および障害特別支給金は、同一の様式で、同時に請求することができます。


② 請求に関する時効について:5年経過で時効により請求権が消滅

障害(補償)給付は、労働基準監督署に請求しなければなりません。治ゆした日の翌日から5年を経過すると、時効により請求権が消滅します。


③ 障害(補償)等年金前払一時金:年金払いの給付を一時金として前払いを受ける

障害等級が第1級~第7級に該当し、障害(補償)年金の受給者となった場合、年金は、通常、2か月ごとに2か月分が一度に支給されます。しかし、1回に限り、前払いを請求することができます。障害等級に応じて一定額を一時金として前払いを受けられるものですが、あくまで前払いであって、障害(補償)年金として給付される金額が増えるわけではありません。


④ 障害(補償)等年金差額一時金:障害(補償)年金の受給者が死亡したとき

障害(補償)等年金の受給権者が死亡したとき、既に支給された障害(補償)等年金と障害(補償)等年金前払一時金の合計額が、障害等級に応じて定められている一定額に満たない場合には、遺族に対して、障害(補償)等年金差額一時金が支給されます。

以上が障害(補償)給付となります。給付の要件や保険給付される金額、手続方法等注意事項についてみてきました。簡単に下記にまとめます。


・ 障害の種類や程度に応じて14段階の障害等級がある。給付内容は障害等級に応じて決まる

・ 障害(補償)給付は、障害等級が第1級~第7級の場合は年金で、第8級~第14級の場合は一時金で保険給付される

・ 労働基準監督署に所定様式を提出して請求するが、治ゆから5年で時効消滅するので注意

・障害(補償)年金には前払一時金や差額一時金など独自の制度がある


労災によって手厚く補償されているとはいえ、障害は、ずっと残ったまま生活していくことになります。仕事の内容や家族など身近な人のことも考えると、労災の補償内容だけではやや心もとない印象がぬぐえないかもしれませんね。このあたり、任意保険などを活用して、万が一の際に備えたいところです。


オープンリソース・アルケミストは、お客様の経営実態に合わせた提案を行っております。リスク管理や労災対策に関する疑問や改善案について、どうぞお気軽にお問い合わせください。

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