日常生活のケガや病気の治療費は健康保険で3割負担が一般的ですが、労災保険なら治療費は原則として無料。そのため、労災に対する補償はより手厚いと言えます。
そして、労災保険は業務の最中だけでなく、通勤途中の出来事にも適用されることをご存知でしょうか。しかし、通勤途上のケガに対する適用条件や注意点については、意外にも知らない方が多いのが実情です。
本記事では、通勤中のケガと労災について、該当する場合と気をつけるべきポイントについて解説します。
![通勤中のケガと労災](https://static.wixstatic.com/media/cd7140_3de333d96a6f4207a08483cb83137a5d~mv2.png/v1/fill/w_980,h_551,al_c,q_90,usm_0.66_1.00_0.01,enc_auto/cd7140_3de333d96a6f4207a08483cb83137a5d~mv2.png)
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1. 通勤災害とは?通勤災害と労災の関係(定義)
労働者が通勤中にケガなどの傷病を負う場合、それが通勤災害とされます。
通勤災害の例:
最寄り駅の階段で転倒し脚を骨折するケース
自転車で通勤中に交差点で自動車と接触してケガするケース
通勤災害が認められると、労災による保険給付が行われます。通勤災害の定義は、労働者災害補償保険法(労災保険法)第七条によって明確に規定されています。
労働者災害補償保険法第七条 (引用)
労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする。
一 住居と就業の場所との間の往復
二 厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動
三 第一号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る。)
以上の定義から、いくつかの重要なポイントに注意する必要があります。具体的には下記の2点です。
合理的な経路および方法
就業に関し
まず、合理的な経路および方法について考えてみましょう。
2. 寄り道した場合はどうなる?
さきほど定義について確認しましたが、合理的な経路及び方法により行われる移動が通勤災害の定義に含まれています。そのため、これを外れた経路や方法は、通勤災害にならない可能性があります。
下記の事例で事故に遭いケガをしたような場合は、労災となるでしょうか?
通勤途中に寄り道をした
電車通勤なのにこっそり車で出勤した
① 通勤途中に寄り道をしてケガをした場合
帰宅途中に同僚と飲みに行き、そこでケガをしたような場合まで通勤災害といえるでしょうか?このような場合まで労災とすると、その範囲が広がりすぎてしまいます。そのため、合理的な経路という制限を設けていることとなります。この制限を「逸脱」あるいは「中断」といいます。
合理的な通勤経路から逸脱し、あるいは中断した場合、逸脱中断以後は、通勤途上とは認められないこととなります。帰宅途中に居酒屋に立ち寄ったり、その結果、遅くなったので帰宅せずにホテルに泊まるような場合です。業務や通勤とは関係のない理由での寄り道によって合理的な経路から逸脱あるいは中断していますので、そこで負った傷病は、通勤災害とは認められないこととなります。
一方で、合理的な経路とは、最短経路という意味ではありません。工事や混雑により迂回した経路で通勤することもありますし、用便のため通勤途上の近くの公園のトイレに立ち寄るといった行為は、合理的な経路として認められえるものとなります。
また、通勤途中に「日用品の買い物をする」「持病の治療のため病院に立ち寄る」「子どもを保育園に迎えに行く」など生活上必要な行為のために寄り道をするようなこともあります。このような場合まで合理的な経路ではないとすると、厳しすぎる制限となります。この場合は緩やかに解釈して、合理的な経路と考えられる経路に復した時点から再び通勤途上として扱われるとされています。どのような行為がこれに該当するかについては、「日常生活上必要な行為であつて厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合」として定められた行為が該当します。
② 電車通勤なのにこっそり車で通勤して事故、ケガをした場合
合理的な経路だけではなく、方法も定められています。見出しの行為は、通勤災害として認められるでしょうか。このケースは会社の規定に反しているだけであって、通勤災害としては認められえます。※ケースは、会社規程に基づく処分対象とはなりえますが、通勤災害とは別問題となります
合理的な方法とは、交通手段を限定するものではないからです。合理的な方法が問題となるケースは、先の例でいうと、「急いでいてスピード超過により事故をまねき、負傷した」ような場合があげられます。このような合理的な方法といえないものについて、通勤災害として認められないこととなります。この辺りは個別具体的なケースに応じて判断されます。
以上、合理的な経路や方法について解説しました。次の項目では、「就業に関し」という点を取り上げます。
3. 早退した場合は?
ひと言に通勤といっても、色々なケースが考えられます。「急な私用が生じたので、休暇の許可をとって帰宅した」「会社に私物を忘れたため、休日に会社に取りに行った」というような場合です。
「自宅と会社との間を合理的な経路方法で往復すること」のみを通勤災害の要件とした場合、やはり、通勤の意味が広がりすぎます。合理的な経路方法だが、私用を理由とした往復まで通勤災害が認められる可能性がでてきてしまうからです。そのため、「就業に関し」という制限を設けています。
「就業に関し」とは、自宅と会社とを往復する行為が「業務に就くためのもの」または「業務を終えたことにより行われるもの」であることを意味しています。往復行為が会社の業務に関連していることが必要とされています。
急な私用による休暇許可を受けて帰宅中の事故は、「退勤途中の事故」と見なされ、通勤災害に該当する可能性があります。一方で「私物を忘れたため休日だが会社へ取りに行く」というのは、業務とは関連しない私用での往復となりますので、通勤災害とはならないでしょう。
さて、ここまで通勤災害の定義や要件について解説しました。通勤災害も労災保険の補償対象となりますが、業務災害とは異なる注意すべき点があります。次の項目で解説します。
4. 業務災害とは異なるポイント
通勤災害にせよ、業務災害にせよ、労災保険による保険給付対象となります。
例えば、労災によるケガをして治療を受ける場合、業務上の災害によるものであれば療養補償給付を、通勤上の災害によるものであれば療養給付を受けることができます。
しかし、通勤災害を原因としての補償は、業務災害によるものと比べて補償範囲が狭くなります。具体的には以下の3点です。
① 療養給付につき労働者が一部負担金(200円を超えない範囲)を負担することがある
② 通勤災害による負傷等を原因として休業する場合、休業直後3日間の休業補償がない
③ 通勤災害で休業中、労働基準法の解雇制限の規定が適用されない
通勤災害は、使用者の支配下、管理下において発生するものではないため、業務災害に対する補償ほど広くは補償されないものとなります。とはいえ、補償内容が大幅に変わるものではなく、補償の種類によっては手厚い補償といえるものでしょう。
以上、通勤災害についての解説でした。通勤災害の定義にはじまり、要件としての「合理的な経路及び方法」「就業に関し」というポイントを確認しましたが、業務上の傷病と比べると少し複雑な部分もあったと思います。労災保険等で補償される通勤災害になるかどうかは、個別具体的なケースに応じて判断されることとなりますが、記事をご参考としていただければ幸いです。
なお、通常、地震などの天災によるケガ等は労災の補償とはならないところ、東日本大震災では、通勤中、業務中だった方の傷病は労災認定されています。これを基準として、今後は労災の範囲が広く解されるとともに、企業の安全配慮対策はより一層の充実が求められるかもしれません。労災上乗せ保険を検討するなど、十分な備えが必要ですね。
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