原則として、労災保険は事業単位で保険関係が成立します。製造業を営むA社は従業員のために労災保険に加入して保険料を納付します。その従業員がサービス業を営むB社に転職したら、B社がその労災保険料を負担することとなります。
一方で、建設業における建設工事や、林業における立木伐採事業は、一定期間において工事の完成をその事業の目的とする事業です。このような事業を有期事業といいます。有期事業は、その業務の特殊性から、一般の労災保険関係とは異なる手続きにより成立します。
この記事では、有期事業における保険関係の成立や元請業者の下請け一括加入といった、建設業における労災保険の概要と注意すべきポイントについて解説します。
Guide Line
1. 建設業における労災保険とは?
建設業や林業では、そこで働く労働者の職種について、2つの側面があります。
・建設工事や立木伐採事業など、工事の現場で従事する労働者
・経理や庶務など、事務のみに従事する労働者
建設業とはいえ、事務も含めた会社の業務自体は、製造業などその他の業種と同じような業務体系です。例えば経理部門をあげると、その業種固有の実務内容は違いがあっても、事業が続く限りその役割は継続します。このような事業の事を継続事業となります。一方で、工事は、一定期間に仕事の目的物を完成させる事業です。ビルやトンネルなど工事の目的物が完成したら、その時点でその事業は目的を果たして終了します。このような事業を有期事業といいます。つまり、建設業や林業など一部の業種では、継続事業と有期事業が混在しています。
有期事業では、工事によって求められる技能や役割が異なるため、工事の都度、元請けや協力会社(下請)、一人親方といった、様々な会社、個人事業主が集まります。また、工期も工事ごとに異なります。そのため、通常の労災保険における使用者、労働者という関係はなじまずに、複雑な労働関係が生じます。したがって、有期事業におけるこの複雑な関係に合わせた労災保険が必要となります。これを、現場労災といいます。
工事現場においては、現場労災による保険関係で万が一の際に備えることとなりますが、複雑な労働関係の中で、誰が労災保険の責任者となるのかが問題になります。次の項目で確認しましょう。
2. 元請による協力会社(下請)一括加入とは?
建設現場の事業が数次の請負によって行われる場合、現場労災における保険関係については、原則として、元請業者を事業主とした一括加入となります。こうすることで、一つの労災保険の関係で済むことになります。
逆に言うと、現場労災においては、協力会社(下請)は当該事業においては労災保険に加入する必要がありません。労災が発生した際には、元請が加入した労災保険の補償範囲に含まれることとなります。その現場において万が一のことが起きた際には、元請が加入した労災保険の適用を受けることができます。
一方で、通常の労災保険のことを思い出すと、使用者や家族従業者はその補償の対象外となっていました。現場労災の労働関係の中には、元請の使用者と労働者、協力会社(下請)の使用者と労働者、一人親方が含まれることが多々あります。全員が補償されるのでしょうか?次の項目で確認しましょう。
3. 一括加入でも補償されない?
現場労災における労災保険でも、通常の労災と同様に、使用者の立場にある人はその補償範囲に含まれません。ここでいう使用者とは、下記の現場関係者となります。
・元請会社の使用者
・協力会社(下請)の使用者
・一人親方や個人事業主、その家族労働者
つまり、通常の労災と同様、経営者や役員、家族労働者は現場労災の補償対象とはならないこととなります。使用者等が現場における労災に備えるためには、特別加入制度によって加入するか、労災上乗せ保険に加入することとなります。
また、現場労災で補償される人の範囲は、請負契約に基づいて現場に入る関係者となります。そのため、委託契約や賃貸借上の契約関係に基づき現場に立ち入る関係者(警備会社の警備員やリース重機の専属オペレーター)は、現場労災の対象とはなりません。この場合は、現場労災ではなく、それぞれが所属する会社の労災保険を使うこととなります。
以上、工事など有期事業の現場における労災保険関係について解説しました。工事の現場は有期事業であることから、現場労災における保険関係が適用されることになりますが、基本的には、通常の労災と大きく異なる違いはありません。一方で、工事現場には、経営者や役員が作業の指揮監督で立ち入ったり、一人親方が作業に従事したりすることは多々あります。工事現場は重機や高所など危険な点がたくさんあるため、使用者の立場の方もしっかりと補償されるように特別加入制度の利用や上乗せ保険への加入など、万が一の際にしっかりと備えておくようにしましょう。
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