労災保険は、労働者が業務上および通勤途上においてケガや病気に遭遇した際に保険給付される制度であることを、いままでの記事で解説しました。
したがって、治療費だけが保障されるのかと思われるかもしれません。しかし実際には、労災保険の補償範囲はケガや病気の治療に限らず、休業が必要となった場合や障害が残った場合に至るまで、広範囲にわたります。
この記事では、労災保険の給付内容について、全体像として大まかに解説します。
Guide Line
1. 療養(補償)給付
療養補償給付は、業務が原因でケガをしたり、病気になった場合に、その治療のために支給される給付のことです。 例えば、プレス作業中に機械で指を挟んでしまい骨折した場合(ケガ)や、残業続きで長時間労働となりうつ病になった(病気)といった事例が挙げられます。 これに対し、療養給付とは、通勤中にケガをした場合に、その治療について支給される給付のことです。例えば、通勤途上の駅の階段で転んで足首をねんざした場合です。
つまり、業務中や通勤中のケガや病気に対して、その治療費等が支払われる保険給付です。
※なお、ここ以後も○○補償給付、○○給付という言葉が出てきますが、”補償”とつく給付は業務中のものを、つかないものは通勤上のものを指すので、補償の部分に()をつけて解説します。
2. 休業(補償)給付
休業(補償)給付は、労働者が業務上および通勤途上にケガや病気に遭い、その療養のために労働することができず、賃金を受けられない場合に受けることができる保険給付です。
休業(補償)給付を受けるためには、下記の3つの要件が必要です。
業務上の事由または通勤による病気や怪我で療養中であること
その療養のために労働することができない期間が4日以上であること
労働できないために、事業主から賃金を受けていないこと
つまり、業務中や通勤途上にケガや病気に遭い、4日以上働くことができずに休業し、その間の給料を受けられない場合に支払われる保険給付です。
3. 障害(補償)給付
業務上又は通勤による傷病が治った(治ゆ)あと、身体に一定の障害が残った場合に支払われる保険給付が障害(補償)給付です。ここでいう”治った(治ゆ)”とは、回復したという意味ではなく、傷病の症状が安定して、医学上一般的に認められた医療を行ってもそれ以上の医療効果がもはや得られない状態となった時のこと(症状固定)をいいます。
つまり、業務上通勤上のケガや病気によって医師の治療を受けたが、もうこれ以上は治らないという状態となってもまだ後遺症が残る場合に支払われる保険給付です。
4. 遺族(補償)給付
業務または通勤が原因で労働者が死亡した場合に、その遺族に対して支払われる保険給付が遺族(補償)給付です。
ここでいう遺族とは、労働者の死亡当時、その収入によって生計を維持していた配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹をいいます。「その収入によって生計を維持していた」とありますが、生計の一部を維持していれば足りるため、共稼ぎの場合でも対象になります。
ただし配偶者以外の遺族には、年齢や一定の障害があることなどの条件があります。
5. 葬祭料(葬祭給付)
労災によって労働者が死亡したときに、葬儀を行う遺族等に対して支給されるのが葬祭料(葬祭給付)です。
葬儀を行うのにふさわしい遺族に対して給付されるものとなりますが、遺族がなく、会社が社葬として葬儀を行った場合は、会社に対して葬祭料(葬祭給付)が支給されます。
6. 傷病(補償)年金
労災によるケガや病気で医師の治療を開始したが、治療開始後1年6か月を経過しても治ゆせずに、重い症状があり、治療を続ける必要があるときに年金として給付されるのが傷病補償年金です。
7. 介護(補償)給付
障害(補償)年金または傷病(補償)年金の受給者のうち、
・障害等級・傷病等級が第1級のすべての受給者
・第2級の「精神神経・胸腹部臓器の障害」に該当する受給者
上記いずれかに該当し、現に介護を受けている時に給付されるのが介護(補償)給付です。
介護補償給付は、障害の状態に応じて「常時介護を要する状態」と「随時介護を要する状態」に区分され、補償内容が決まります。
8. 二次健康診断等給付
二次健康診断等給付は、職場の定期健康診断等(以下「一次健康診断」といいます)で異常の所見が認められた場合に、脳血管・心臓の状態を把握するための二次健康診断及び脳・心臓疾患の発症の予防を図るための特定保健指導を1年度内に1回、無料で受診することができる制度です。
以上が労災保険の給付内容です。こうしてみると、ケガや病気の状態に応じて多岐にわたる手厚い補償であることがわかると思います。そのため、今回の記事では全体像だけお伝えしました。しかし、大事なのは「いくらくらい給付されるのか」です。次回以降、それぞれの給付がどれくらいのものなのか、給付の種類ごとに個別に解説しますので、ぜひお楽しみください。
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