最小の死亡者数ですが、一方で、死傷者数は132,355人となり、過去20年で最多とのことです。労災は身近なところで確実に発生していて、それがどの程度の災害規模になるかは日ごろの備えに左右されるのだと思います。
この記事では、労災保険の給付内容のうち、遺族(補償)給付について掘り下げて解説します。給付を受けることがないといいなと思いながらも、万が一の際に、ご遺族に遺せるものですので、ご覧いただければ幸いです。
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1. 受給資格者とその順位
遺族(補償)給付は、労災に被災した本人ではなく、遺族に給付されるものです。とはいえ、現代社会では家族の形態は様々です。しかし、多くの人に分割されると煩雑となり、また問題となることもあるでしょう。そのため受給資格者の範囲を限定するとともに、その順位付けもされています。まず最初に、受給資格者とその順位について解説します。
① 受給資格者の範囲
受給資格者は、労働者の死亡当時、その収入によって生計を維持していた
配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹
となります。配偶者は、婚姻の届出をしていない(事実婚)場合も含まれます。子は、被災労働者死亡時に胎児だった子も含まれますが、無事に出生した場合に受給資格者となります。最優先順位者が死亡したり再婚したりして受給権を失うと、次順位の受給権者へ給付を受ける権利が移ります。
なお、その収入によって生計を維持していたとあります。これだといわゆる共働きの場合は対象にならないのかと思ってしまいますが、死亡した労働者の収入によって生計の一部を維持していれば足ります。つまり、共働きでもOKです。
また、同居の場合はもちろん、別居している場合でも、経済的な援助の関係があったり、定期的な連絡や訪問などの関係があれば生計維持関係としては問題ないとされています。逆に言うと、名目上離婚していなくても、もはや離婚しているのと同視されるような程度の関係性でしかなければ、給付されない可能性はあります。
② 受給権者の順位
受給資格者は、労働者の死亡当時、その収入によって生計を維持していた配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹になります。最優先の順位者だけが給付を受けることができます。なお、妻以外の遺族については、被災労働者の死亡当時に年少または高齢であるか、あるいは一定の障害(障害等級5級以上の身体障害)がある必要があります。具体的には下記の順位となります。
1番:妻または60歳以上 or 一定障害の夫
2番:18歳に達する日以後,最初の3月31日までの間にある or 一定障害の子
3番:60歳以上 or 一定障害の父母
4番:18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある or 一定障害の孫
5番:60歳以上 or 一定障害の祖父母
6番:8歳に達する日以後,最初の3月31日までの間にある or 60歳以上 or 一定障害の兄弟姉妹
7番:55歳以上60歳未満の夫
8番:55歳以上60歳未満の父母
9番:55歳以上60歳未満の祖父母
10番:55歳以上60歳未満の兄弟姉妹
2. 遺族(補償)給付の補償内容
遺族(補償)給付では、
・遺族(補償)年金
・遺族特別支給金(一時金)
・遺族特別年金
が支給されます。給付される金額は、被災労働者の給付基礎日額や算定基礎日額および遺族の人数によって決まります。
遺族人数 | 遺族(補償)年金 | 遺族特別支給金 | 遺族特別年金 |
1人 | 給付基礎日額の153日分 ※55歳以上の妻または一定障害の妻の場合は175日分 | 300万円 ※遺族の人数にかかわらず一律 | 算定基礎日額の153日分 ※55歳以上の妻または一定障害の妻の場合は175日分 |
2人 | 給付基礎日額の201日分 | | 算定基礎日額の201日分 |
3人 | 給付基礎日額の223日分 | | 算定基礎日額の223日分 |
4人 | 給付基礎日額の245日分 | | 算定基礎日額の245日分 |
例えば遺族人数が妻(35歳)および子(5歳)の2人の場合で、月給約30万円、ボーナス年額100万円の家庭を考えてみます。この場合、給付基礎日額は約1万円、算定基礎日額は約2千円となりますので、
① 遺族(補償)年金として:10,000円 × 201日分 = 201万円
② 遺族特別給付金として:300万円 ※一時金のため初年度のみの給付
③ 遺族特別年金として:2,000円 × 201日分 = 402,000円
となるため、合計すると、5,412,000円となります。
2年目以降は②の遺族特別支給金が給付されないため、2,412,000円の給付です。
遺族厚生年金や遺族基礎年金などと併給できますが、その場合、遺族(補償)年金は併給調整として減額されます。不足してしまうと感じられるのが正直なところではないでしょうか?任意保険などで不足分をカバーすることが必要ですね。また、経営者は、労災で従業員の方が死亡したときのことを常に念頭におき、あらかじめの備えておくことが必要です。遺族の方と労災に関して争訟となり、責任を負うこととなった場合に会社継続の危機ともなりえます。
3. 請求について:時効にも注意
① 請求について:請求先と必要書類
遺族(補償)給付は、所轄の労働基準監督署に所定様式を提出して請求します。遺族特別支給金についても、同一の請求で、同時に行うことができます。なお、遺族(補償)年金は、被災した労働者本人ではなく、その遺族が行うもののため、添付書類の種類が多くなっています。本人の死亡の証明のために死亡診断書を添付したり、関係性を証明するために戸籍謄本や生計を一にしていることを証明する書類を添付する必要があります。
② 時効に注意:死亡した日の翌日から5年
遺族(補償)給付の申請は、被災労働者が死亡した日の翌日から起算して5年が経過すると、時効により請求権が消滅します。この点を忘れずに、適切なタイミングで請求手続きを行いましょう。遺族の権利を守るために大切な注意事項です。
4. 一時金として支給される給付について
① 遺族(補償)一時金:下記のいずれかに該当する場合に支給
遺族(補償)一時金は、次の場合に支給されます。
・被災労働者の死亡時に、遺族(補償)年金の受給資格者がいない場合
・遺族(補償)年金の受給資格者が失権し、他に年金の受給資格者がなく、かつすでに支給を受けた額が給付基礎日額の1,000日分に満たない場合
遺族(補償)一時金の受給権者は、以下のとおりです。
・配偶者
・労働者の収入によって生計を維持していた子・父母・孫・祖父母
・その他の子・父母・祖父母
・兄弟姉妹
② 遺族(補償)年金前払一時金:下記のいずれかに該当する場合に支給
遺族(補償)年金を受給する遺族は、1回だけ年金の前払いを受けることができます。前払一時金の額は、給付基礎日額の200日分、400日分、600日分、800日分、または1,000日分から選べます。ただし、前払一時金を受けると、遺族(補償)年金の支給が停止され、前払一時金の額に達するまで支給が再開されません。
5. 転給とは?:受給権者が変わるとき
遺族(補償)等年金を受ける権利者が以下の事由に該当する場合、給付を受けることはできなくなります。
・受給権者が死亡したとき
・受給権者が婚姻をしたとき ※事実婚含む
・直系血族または直系姻族以外の者の養子となったとき ※事実上の養子含む
・離縁によって、死亡した労働者との親族関係が終了したとき
・子、孫または兄弟姉妹については、18歳に達する日以後の最初の3月31日が終了したとき
※被災労働者の死亡の時から引き続き一定障害の状態にあるときを除く
・一定障害の状態にある夫、子、父母、孫、祖父母または兄弟姉妹については、その事情がなくなったとき
この場合、次順位の受給権者は労働基準監督署に所定様式および添付書類(戸籍謄本等)を提出して保険給付を請求することができます。受給権者の変更に伴う手続きを適切に行うことが、遺族の権利を守るために重要です。
以上で、労災保険の遺族(補償)給付についての解説が終わります。労災による死亡事故は減少していますが、死傷者数の増加から分かるように、危険は身近に潜んでおり、予測できない場所で発生する可能性があります。労災による死亡は、遺族にとっては大きな悲しみと経済的な困難をもたらすものです。一方で、給付金額は十分とは言えないことから、労働者だけでなく、使用者も労災上乗せ保険などの対策を考え、最悪の事態に備えることが重要です。
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