これまでの記事の中で、労災保険の補償内容のうち、障害(補償)給付や傷病(補償)年金を取り上げてきました。労災によるケガや病気について、症状固定後、障害が残ったり、長期間にわたって傷病が癒えない場合、その苦しみを一番負担するのは被災労働者本人であることは間違いありません。しかし、介護が必要な状態となったとき、本人はもちろん、家族など身近な方にも一定の負担がおよびます。とりわけ、経済上の負担は大きくなることが一般的です。
そこで登場するのが介護(補償)給付です。この制度は、労災保険の一環として、介護が必要な状態にある労働者に対して給付を行うものであり、介護の負担を軽減する重要な手段となっています。この記事では、労災保険の介護(補償)給付について詳しく解説します。
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1. 常時介護と随時介護
一言に介護といっても、2つの状態があります。
・常時介護:常に介護を要する状態
・随時介護:必要なときだけ介護を要する状態
介護(補償)給付では、どんな障害が常時介護や随時介護にあたるのか、障害の程度に応じて次のように定めています。
| 具体的な障害の状態 |
常時 介護 | ①精神神経、胸腹部臓器に障害を残し、常時介護を要する状態に該当 (障害等級第1級3号、4号 傷病等級第1級1、2号) ②両眼が失明するとともに、障害又は傷病等級第1級、第2級の障害を有する 両上肢及び1両下肢が亡失または用廃の状態にある 等、①と同程度の介護を要する状態である方 |
随時 介護 | ①精神神経、胸腹部臓器に障害を残し、随時介護を要する状態に該当 (障害等級第2級2号の2、2号の3 傷病等級第2級1、2号) ②障害等級第1級または傷病等級第1級に該当する方で、常時介護を要する状態ではない方 |
2. 支給要件
介護(補償)給付が支給される要件として、以下の3点に該当することが必要です。
① 一定の障害の状態(常時介護もしくは随時介護)に該当すること
② 民間の有料の介護サービスや親族、友人、知人により、現に介護を受けていること
③ 病院または診療所に入院していないこと
④ 介護老人保健施設、介護医療院等の介護関連施設に入所していないこと
3. 給付内容
介護(補償)等給付の支給額としては、介護の程度に応じて異なります。具体的な金額(月額)次のとおりです。※令和5年4月1日改正予定の支給額です。
(1)常時介護の場合
① 親族または友人知人の介護を受けていない場合
→ 介護の費用として実際に支出した額(ただし上限として172,550円)
② 親族または友人知人の介護を受けるとともに、、、
・介護費用を支出していない場合 → 77,890円
・介護費用を支出し、その額が77,890円を下回る場合 → 77,890円
・介護費用を支出し、その額が77,890円を上回る場合 → 実際の支出額(上限172,550円)
つまり、親族等の介護の有無および介護費用の支出の有無とその金額に応じて、77,890円~172,550円が支給されます。
(2)随時介護の場合
① 親族または友人知人の介護を受けていない場合
→ 介護の費用として実際に支出した額(ただし上限として86,280円)
② 親族または友人知人の介護を受けるとともに、、、
・介護費用を支出していない場合 → 38,900円
・介護費用を支出し、その額が77,890円を下回る場合 → 38,900円
・介護費用を支出し、その額が77,890円を上回る場合 → 実際の支出額(上限86,280円)
つまり、親族等の介護の有無および介護費用の支出の有無とその金額に応じて、38,900円~86,280円が支給されます。
(3)月の途中から介護が開始された場合
① 介護費用を支払って介護を受けた場合 → 上限額の範囲で介護費用が支給
② 介護費用を支払わず、親族友人知人から介護を受けた場合 → 介護開始月は支給されない
4. 請求方法や時効について
① 請求方法:労働基準監督署に所定様式および添付書類を提出
介護(補償)等給付の請求は、労働基準監督署に所定の様式を提出して請求します。
請求書や添付書類には、介護人に必要事項を記入してもらうことが必要です。また、医師や歯科医師の診断書が必ず必要となります。介護のための費用を支出している場合は、費用を支出して介護を受けた日数と費用の額を証明する書類も必要になります。
② 時効について:介護開始月の翌月初日から2年で時効消滅
介護(補償)等給付は、介護を受けた月の翌月1日から2年を経過すると、時効により消滅します。なお、介護(補償)給付は月額払いのため、消滅時効の対象となる請求権は月ごとです。給付申請忘れのないように気をつけましょう。
介護が必要な状態になった際、労働者およびその介護者に対して介護(補償)給付が金銭の形で行われることで、経済的な支援が提供されます。しかしながら、介護に関連する経済的な損失は、労災が発生する前の生活状況を大きく変化させるものです。労災保険の範疇だけで安心できない場合、雇用主は労災保険に追加して、不測の事態に備えるための上乗せ保険に加入することを考慮すべきです。また、状況によっては使用者賠償責任が求められることもあります。事業を維持し発展させる視点からも、適切な準備を行うことが重要です。このようなリスク管理と労働者支援の両面を考慮した対策を講じることが、労災による介護の負担を最小限に抑える一つの方法となります。
オープンリソース・アルケミストでは、お客様の経営実態に合わせた提案を行っております。リスク管理や労災対策に関する疑問や改善案について、お気軽にお問い合わせください。安心できる労働環境づくりをサポートいたします。
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